そらより

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母の七夕

      2016/10/28

 

今年81歳になる母は実家にひとりで暮らしています。庭に隣接する畑で花や野菜を育てるのを唯一の楽しみにしていました。しかしここ数年畑に立つことが少なくなり、広い座敷にぽつねんと座る姿が目立つようになりました。庭の草木や里山、垣根の向こうにたまに現れる路行く人を眺めるのが今は楽しいと言います。

静かに流れる時間の中で、思いを巡らすことが多々あるのでしょう。食事の後などに昔のことを話してくれたりします。どんな経緯からそこに至ったのか、ある日、最も古い記憶について教えてくれました。

 

母の七夕

 

幼い母はおじいちゃんと手をつなぎ川沿いの道を歩いています。おじいちゃんの片側の手には夕べの七夕の笹飾りがありました。願いを込めた笹はその夜が過ぎたら川に流すのだよ、これから川に流しに行くのだよ、とやさしく教えてくれたと言います。

川といっても山間の村のこと、えぐれた土手がむき出しの、曲がりくねった渓流にすぎません。そんな場所でいったいどうやって笹を流したのか。母も実際に流したところの記憶はなく、ただおじいちゃんに手を引かれ歩いたシーンだけが甦るのだそうです。

温もりをたたえたロマンチックな記憶の断片。還るべきルーツを示す過去からのメッセージ。宇宙の奥底から遥かな時を経て届いた謎の光を、たまたま電波望遠鏡でキャッチしてしまった科学者は、うれしそうに、でもそんな不思議は手に余るといったふうな顔で話していました。

家に帰れば、母の口から、子供の頃や若かった頃のきらきらした思い出話が次々と飛び出します。きっと今日も座敷の片隅に座り、大きなパラボラアンテナを心の奥に向けながら、ぼんやり外を眺めていることでしょう。

早く、実家に帰ってあげなくちゃ。

 

 

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