天国の殺人者

投稿日:2016年12月4日 更新日:

 

ウィリアム・サローヤン(William Saroyan)という作家をご存じですか。アルメニア出身の小説家・戯曲家で、おもに1930年代から40年代にアメリカで活躍した人物です。

彼の作品を読み漁っていた30代の頃、仕事の資料探しでよく立ち寄っていた青山ブックセンターで、たまたま彼の戯曲集を見つけました。

天井近くの棚の一番上にひっそり置かれていたそれは、ハードカバーのやや厚手の本で、どこか研究書のような風格を持っていました。いつか彼の絶頂期の戯曲を読んでみたいと思っていた僕は、ジャングルで奇跡の動物を仕留めたかのような誇らしい気持ちでその本を手に取ったのを覚えています。

そこに「夕空晴れて」というお話があります。

(初見で読みたいという方は、ここでおやめください)

 

sky

 

舞台は、人びとがこの世に生を受ける前の天国の待合室。みんな死ぬときの年齢でそこにいます。

ある中年女性が赤ちゃんを見て「かわいそうに」とつぶやきます。

そこに一人の若者がいきり立つ。

「それならまだましさ。僕は殺人者として生まれるんだ」

部屋の隅では、彼に殺される運命の若者がうなだれています。

殺人者はいやだ、いやだ、とわめきながら部屋から連れ出されます。

 

可能性に満ちているとされた自由の国での生を、サローヤンは真っ向から否定します。しかし、それでも彼は生きるべし、生きるべしと訴えます。与えられた運命を生きるしかできないとしても、僕たち(観客や読者)はよりよく生きようとしている。いままさに命を絶とうとしている人でさえ、この物語を前にまだ生を模索している。無尽の希望が「部屋の外」にあることを気付かせてくれるのです。

絶望を描きながら、言外に人生の愛おしさを教えてくれるサローヤン。僕がどんな人間であるかを自らひとに説明するとき、いつか必ず引っ張り出される好きな作家の一人です。

 

 

 

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