横転した車のなかで母は少女のように笑っていた

投稿日:2016年12月30日 更新日:

 

雪の農道をゆっくり走る軽トラック。運転していたのは父。隣には母がいた。田んぼの中の1本道。車1台がやっと通れる幅しかない。雪が降るなんて年に1、2回あるかないかの土地だ。慎重であったはずだが、ハンドルか、アクセルか、あるいはその両方か、父は操作を誤った。ズルズルと、スローモーションで、軽トラックは道を外れ田んぼに滑り落ちていった。

 

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横転した車内。ハンドルを握る父に、ベンチシートの隣に座っていた母が座ったままの姿でのしかかる。その様子を想像してみたらなんだかとってもおかしくて、母は思わず声に出して笑ってしまったそうだ。

父は血相を変え、声を張り上げた。「早く出ろよ~、何やってんだ、早く出るんだよ~」。母は笑いを押し殺しながら、ようようドアを開け外に出た。父も、慌てて這い上がってきた。

「二人とも燃え死ぬかもしれなかったんだぞ、なにをグズグズしてやがったんだ」と、父は繰り返し母を叱責した。横倒しになった車からガソリンが漏れ、エンジンの熱で火がつくかもしれないと思ったらしい。母はそれでもおかしくて、おかしくて心の中で笑っていた。

古い家屋の座敷。中央に置かれた炬燵に母と僕。昔を懐かしむ語らいのなか、ふと思い出したのか、初めて教えてくれた。父が亡くなってから、もう十数年の時が経つ。僕が生まれる前か、後か、いずれにしろ遠い過去の出来事。誰にも知られず消えて無くなる運命にあった話である。

 

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昭和半ば生まれのおじさんです。妻と娘と猫と金魚と東京西部にひっそり暮らしています。息子夫婦に孫娘ちゃんもいます。「くらしとこころにそらより」うるおいを降り注ぐ記事をめざしています。

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