種漬花

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地植えの水仙を鉢に植え替えて数年。南向きの花台のいちばん日当たりのよい場所に置かれた鉢は、期待に反し、今年も葉ばかりで花は一輪しか咲きませんでした。それもすでに枯れ、文字通り葉のみとなったところ、脇からなにやら雑草が生え出し、小さな白い花をつけたので、後生大事に水をやっておりました。

そんな様子をしり目に連れ合いが「酔狂にもほどがある」と茶々を入れてきます。

以前、中庭でレンガの隙間の雑草を取り、野すみれだけを残したところ、あれよあれよと広がり、小さな紫色の花が一面に広がってそれは見事でした。ある日中庭から「ギィャ~」と悲鳴が聞こえます。慌てて駆けつけるとあちこちで毛虫がうようよ。野すみれはある種の蝶か蛾の好物だったのですね。以来、連れ合いは僕の雑草趣味をあまり快く思っていないのです。

それがどうしたことか、今朝は声色もやさしく、鉢の花を切り取っていいか、と尋ねてきます。ローズゼラニウムを花瓶に活けたところ花芽が出ず、景色が寂しいので添えたいのだそうです。なるほどカスミソウの代わりか、と僕は得意げに快諾しました。

 

tanetsukebana

 

しばらくして彼女がその花の名前を調べ教えてくれました。「タネツケバナ」と呼ぶそうです。「食べられるらしい」とちょっと興奮気味。実際ちぎって食べてみたらしいです。「きれいな花なのに変な名前」と言うので、どんな字を書くのか、僕も調べてみました。

それは「種漬花」。

田植えのための種漬け時期のめやすとしたことからこの名がつけられたそうです。僕が子どものころ、実家の五右衛門風呂の洗い場には、この時期、稲もみの詰められた大きな麻袋がいくつも置かれました。温かく湿気の多い浴室が発芽を促すのに最適と祖母に教えられたのを覚えています。しかしおかげで洗い場は狭くなり、麻袋のケバが肌に触れて痛い。なにより稲もみの蒸される臭いが嫌でしかたありませんでした。

いまは五右衛門風呂もなくなり、田んぼもやらなくなったので、種漬をすることもありません。懐かしく思いを巡らす僕を連れ合いは知る由もなし。夫婦でも、それはそれでよいのだろうと思っています。

 

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