赤い椿の咲くみちは

投稿日:2017年1月6日 更新日:

 

小学生の頃、学校は丘を一つ越えた反対側にあり、児童は雑木の覆い茂った細い農道を通学路としていました。朝は集団登校なのでへっちゃらなのですが、放課後遅くなってしまってからの下校はちょっと恐ろしかった思い出があります。

八幡神社の裏手は暗い木陰のなかに大きな忠魂碑が立ち、首吊りの多いことで知られていました。一人で帰らなければならないときは、なるべく何も見ないよう薄目になって走り抜けたものです。

通学路にはほかにも怖い場所が二つありました。

一つは丘の上に広がる畑の一角に立っていた山桜です。まだ坂口安吾も梶井基次郎も西行も知らない子どもでしたが、満開の時期のその溢れすぎる精気に気圧され、つい足早になってしまいました。

そしてもう一つが雑木林の土手にあった1本の椿です。冬になるといつの間にか真紅の花をつけ、それはある日、着物をはだけた狂女となり僕を見下ろします。枯れた季節に似合わない鮮やかすぎる花もまた圧倒的な生命力で子どもを怖気づかせるのでした。

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椿が古来より日本人の暮らしとともにあったことは40歳を過ぎてから知りました。

民族学者である和歌森太郎氏は著書「花と日本人」で柳田國男を引用し、南国から北国への長い移住の歴史のなかで、祖先たちが手に携えていたのは武器や農具、作物の種だけではなく椿の実や枝も含まれていたはず、としています。雪の深い東北で、暖かい春の到来を信じるよすがとなったのが、緑濃いツンバキの葉と、ぼってりふくよかな生命あふれる花ではなかったか、という発想には説得力があります。木に春と書いて「椿」。なるほどそのいわれがわかるような気がします。

椿は根付きのよい木ではないそうです。それでも幾多の人々が繰り返し育てようと試みた結果が、東北各地にいまある椿の名所だということです。

  

氏は椿にまつわる東北地方の伝説を紹介しています。

海運の船頭と村の娘が恋仲となる。ある日、船頭は西へ行くこととなり、娘は髪油にしたいからと椿の実をみやげに願う。しかし、1年、2年待っても船頭は戻ってこない。遊ばれただけだったのか、と娘は思い悩み、苦しみのあまり、とうとう海に身を投げてしまいます。

しかし3年目、果たして船頭は山積みの椿の実を携え帰ってきたのでした。

娘の死を知った船頭は悲しみ、墓の周囲に持ち帰った椿の実を撒きます。そこは春になると椿の花で覆われるようになり、いつしか「椿山」と呼ばれるようになりました。

青森の津軽半島と下北半島に挟まれた陸奥湾の南。東田沢という地に伝わる悲恋の物語です。

  

僕らが昔使っていた通学路は、その後近くに開通した新道へとその役目を譲りました。丘の上の畑を利用する者はこちらの村にはなく、農道を使う人は少ないはずです。椿は、いまもあの場所で咲いているのでしょうか。確かめに行ってみたくもありますが、じつはちょっと恐いのが正直なところです。

赤い椿の咲くみちは、いまも僕のこころの片隅を巡っています。

 

参考:「花と日本人」和歌森太郎 角川文庫(絶版)
「花と日本人」に想を得たこちらの記事も、ぜひどうぞ。

「さ」の神の宿る日本の美しい言葉

 

 

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