AIが共謀罪を容赦なく告発するすばらしい新世界

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Sean Brown

 

空想は現実へ

家庭用ロボットの誕生を持ち出すまでもなく、すぐれたSF作家が言語化した未来は、遅かれ早かれ実現されるものと思っています。

フィリップ・K・ディックの描いたテーブル上でVR戦闘機が繰り広げる空中戦(*1)はまだ実現していませんが、いずれSONYやOculusが答えを出してくれるでしょう。ウィリアム・ギブスンの描いた神経回路がサイバー空間と直結するジャックイン(*2)はまだ実現していませんが、いずれGoogleやAppleがブレイクスルーしてくれるものと思います。

ただ人類の心に宿る暗黒はぬぐいがたく、繁栄の選択肢が爆発的に拡大する未来だけでなく、ディストピアもまた高い確率で予測されます。

米国にトランプ政権が誕生して以降、ディストピア小説である「1984年」(*3)や「すばらしい新世界」(*4)を求める人が増えたといわれます。

トランプ氏の世界観はルーズベルト政権が第二次大戦中に構想した米英中ソによる世界秩序の確立と覇権主義の撤廃(*5)を引き継ぐ(なぜか平等主義、自由貿易は引き継がない)ものであると思われます。そこから予測し得る到達点は小説「1984年」の描く世界地図と酷似しています。それは各所で小さな紛争を継続しつつ枢軸国の利権と安定を守るものです。

また強権化した保守体制であるトランプ政権が誕生し、都合の悪い者たちの排除へと向かっている点も小説の予言(必然と)しているところです。

一方、たくさんの小説や映像作品がキーテーマとして取り入れてきたAI(人工知能)社会を人類はようやく手に入れつつあります。しかしそこでも「個人の尊厳が理由なく奪われる」など負の部分を危惧する声が生まれています。

今回はこの二つの興味ある「喪失現象」がシンクロすることで実際に起こり得る問題に思いを巡らします。

なお僕はAIの研究者でもなければ、仕事としてデータを活用する側の人間でもありません。そのため多分に憶測と情緒が盛り込まれた文章となることを予めお詫びしておきます。また特定の政治思想や宗教に与する者ではありません。何も共謀していません。小説や映画作品からの引用があります。ネタバレはご容赦ください。

 

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「1984年」が教えてくれる監視社会

1949年刊行のジョージ・オーウェル著「1984年」は、一人の青年の日常風景から始まります。部屋の中央に置かれた「テレスクリーン」を前に、彼はその“視野”から逃れ、秘密の行動を取る。なぜならその装置は彼の行動・音声を監視し「思考警察」に情報を提供するものだからです。

彼は骨董屋で危険を冒して手に入れたペンとインクで、美しい紙の日記帳に、心の内にある自由な思いを書き記します。それは真実を記録しておきたいという、やむにやまれぬ行為でした。しかし強権支配が高度に発達した社会にあって権力者側が最も恐れる規律違反であり、重大な犯罪でもありました。

「テレスクリーン」をパソコンやスマホに置き換えてみましょう。現在、僕たちの通信記録は絶えず記録され、ネット上の行為は監視可能な状態にあります。

また犯罪報道でご存知のように監視カメラは各所に設置され、公共機関及び市街地では記録された映像から過去のおよその移動経路をたどることが可能です。

権力者がある意図をもって個人の言動を捕捉しようと思えば、容易にできる社会へと確実に向かっています。

 

人びとが理想を演じる「すばらしい新世界」

強権体制下にあってどのような自己防衛策が取り得るでしょう。1932年刊行のオルダス・ハクスリー著「すばらしい新世界」に象徴的なシーンが描かれています。

彼は腕をうち振り、最も熱狂した者と一しょになって叫んだ。そして、他のものたちが踊ったり、足を踏み鳴らし、足ずりしたりすれば、彼もまた踊ったり足ずりしたりした。

「彼」は何を恐れているのでしょうか。「彼」には今、神格化された初代最高権力者の降臨を奇跡として喜ぶ市民の理想像が求められています。あるべき市民でなければ反体制思想に汚染された反逆者として烙印を押されてしまうからです。そこには冤罪も疑わしきを罰すれば将来起こりうる危機を回避することができる体制側の都合があります。

それは現代でもよく見る光景ではないですか。北朝鮮は無論、トランプ大統領の演説の後ろに立つ若者にもその異様な姿を発見することができます。そういえば閣僚がそろって大統領に賛辞を述べる茶番を見せられたばかりでした。

堕落した権力は自らの都合を忖度する者を優遇します。権力にすり寄る者だけが勝ち組となり、それがまた権力の強大化を促す。他人事ではありません。

 

個人の振る舞いが一粒子として確率で予測される

AIはビッグデータから確立を引き出し、起こり得る未来を予測し、さらにデータを集積することでその精度を高めます。

複雑を極める社会から一定の傾向を見つけ出し、その先端を、あるいはその隙間をいち早く知らせてくれることにおいて、すばらしく優秀な装置です。

しかし一方でその弊害が指摘されてもいます。

先日、NHKはAIの最前線を伝える番組(*6)を放送しました。そこに服役中のある人物が登場します。彼の収監されている管内では、AIが再犯防止に役立てられ、成果を挙げているとされています。つまり再犯者の履歴データから、どういう家庭環境、経歴の持ち主が再犯率が高いか割り出されており、それらをもとにAIが人物を評価するのだそうです。

彼は、模範因として所外での労働が許されていました。通常であれば一定の服役期間を経たのち刑期短縮が適用されるはずです。しかし彼にその特例は認められていません。AIの判定が彼を要注意人物としているからです。

もしも何らかの啓示が彼に訪れ、心から改心したとしても彼の尊厳がAI判定に反映されることはありません。ビッグデータの一粒子として予測された振る舞いの確率から解放されることはないのです。

またそれがなぜ不可能なのかわかりませんが、AIは判断の根拠を示さない(示せない?)そうです。想像するに、こういうことでしょうか。

木は森であり、森は木である。あるいは細部に事実が宿り、その集積もまた確固たる事実である。

つまり根拠を示そうとすれば、細部を示さなければならず、その報告書は膨大な一次データの明細一覧となってしまう。

だとすると律儀なAIの融通の利かなさは、それぞれ異なる人格を持つ個人にとって脅威です。何より自由に振る舞いたいと願う僕にとって。

かりにAIの判定をもとに第三者が評価を下すとしても、判定の背景が示されない限り、評価者は額面どおり受け取る以外にありません。とすると評価者自体の存在も不要となり、AIにとって“都合のよい環境”が生み出されます。現在「AIが職を奪う」と喧伝されていますが、これもその一因でしょう。AI判定がAIによってダイレクトに適用される社会は悪夢以外のなにものでもありません。

 

権力がAIと結託したとき

権力がAIと結託するとどうなるでしょう。ここまで検証してみると、その答えは明快です。

データをより多く収集するための監視体制が強化される。権力体制を維持・発展させるためのさまざまな予測と施策にAIが活用される。

もしも共謀罪の摘発を強化したければ、メールと通話、位置情報、SNSの記述・閲覧の履歴データを収集・分析すれば一定の集団が特定できるかもしれません。

たまたまそれに僕が該当したら、監視は強化され、逮捕のチャンスを伺うことになります。

権力の支持基盤が強化されるほど、強権体制となり、社会からの排除は容易となります。

AIが理由を示さないことはむしろ好都合となるでしょう。裁判での反論の余地が失われるからです。もしかしたら将来“AI法”なるものが施行され、AI判定が証拠として認定されるかもしれません。

前項で触れたNHKの番組によると、韓国は政策立案にAIを導入しようと動いているそうです。歴代大統領に汚職がたびたび指摘された経緯から、権力者の恣意を排除し社会の最適解を反映させるためです。AIが政治に介入する時代は遠い未来の話ではないようです。

それが願いに反し「権力体制の維持」に用いられることのないよう願ってやみません。また、いつか大統領も官僚も不用となり、残るのはデータを収集する専門家集団としての各省庁というSFもまっぴらご免です

 

オードブルに茹でた犬が出たときの解は?

1982年に公開されたSF映画「ブレードランナー」(*7)ではレプリカントの判定に特殊な質問がなされます。主人公デッカードはレイチェルにさまざまな状況設定を投げ、その反応を見ます。素早くコメントしていた彼女でしたが「オードブルに茹でた犬が出てくる」という設問で態度に窮します。AIの搭載されたレプリカントは論理の飛躍についていくことができません。

僕なら何と答えるでしょう。「下品だ」とでも反応するでしょうか。あなたならもっとうまい言葉が見つかるかもしれません。いずれにしろなんらかの“感想”が浮かぶはずです。

映画では2019年には火星が開拓され、レプリカントが送り込まれているはずですから、文明の進捗は予定より相当遅れている模様です。現状、AIが判断の理由を示せないのは仕方のないことなのかもしれません。

いつかAIが「茹でた犬」の感想を言えるようになったとき、世界の社会体制はどのようになっているでしょう。あるべき「すばらしい新世界」のために、僕は今週末、選挙に行きます。

 

Reference
*1:すみません。作品名を失念しました。ご存知の方、お教えいただけると助かります。フィリップ・K・ディック著(蔵書のうちのいずれかだと思うのですが調べ切れませんでした)
*2:「ニューロマンサー」ウィリアム・ギブスン著 黒丸尚訳 ハヤカワ文庫
*3:「一九八四年」ジョージ・オーウェル著 高橋和久訳 ハヤカワepi文庫
*4:「すばらしい新世界」ハックスリー著 松村達雄訳 講談社文庫
*5:「<研究ノート>第二次世界大戦後の世界構想に関する連合国内の相克について」畠山圭一 学習院女子大学 紀要 第14号
*6:NHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017」(2017年6月26日午後9時放送)
*7:「ブレードランナー」リドリー・スコット監督

 

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