本当は恐ろしい!?「グレーテルのかまど」(不気味な妹の不在)

投稿日:2016年10月23日 更新日:

 

NHK Eテレの「グレーテルのかまど」(毎週月曜 午後10時放送)をご存じですか。瀬戸康史扮するヘンゼルが、しゃべる「魔法のかまど」(声:キムラ緑子)にさまざまなスイーツの作り方を教えてもらうメルヘンなお料理番組。録画するほどではないですが、ザッピング中に見つけると必ず手が止まり、最後まで観てしまう好きな番組の一つです。

 

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さてその番組のタイトルなんですが、ちょっと疑問に思うことがありまして調べてみたんです。

というのも我が愛しき連れ合いがですね。「グレーテルは姉」だと言うのです。だってほら、番組の最後で「お姉さんお帰り」となるお決まりの展開があるじゃないですか。それを根拠に「姉のかまど」と言い張るわけです。本当にそうなのでしょうか。

まず本家NHKのホームページを見ると、こうありました。

・“大人になったグレーテルたちへ”。
 仕事や子育てなどで忙しい毎日を送る女性たちに

・15代ヘンゼル(瀬戸康史)と魔法のかまど(キムラ緑子)

▲出典:NHK「グレーテルのかまど」

「かまど」の所有者についての直接的な記述はありません。

ただ

・ヘンゼルは直系の子孫(15代目当主)である
・かまどは魔法の力を持っている(しゃべることができる)
・お菓子好きな女性を番組ではグレーテルと呼ぶらしい
・姉は忙しい毎日を送る大人の女性らしい(いつも外に出ている)
・姉はグレーテルたちの一人らしい

ということがわかります。

ここであることが推測できます。番組名「グレーテルのかまど」は「お菓子好きな女性のかまど」の比喩であるということです。姉はグレーテルたちの一人であるわけですから、その意味では「姉のかまど」と言ってもよいことになります。

しかしそれでも腑に落ちないのは本物のグレーテルの不在です。番組では「グレーテルたち」には言及していますが、グレーテルは登場しません。もしかしたらヘンゼルの姉がグレーテルそのものなのでしょうか。

あれ? ちょっと待ってくださいよ。グレーテルってグリム童話では姉でしたっけ?

 

gretel

 

グレーテルはどこへ行った

正確なところを知るため「ヘンゼルとグレーテル」に関する研究論文を探し出しました。大手前大学の大島浩英氏が2009年に発表したものです。そこでは初稿と初版、ほぼ決定版となった第7版との詳細な相違が述べられています。

氏の論文によると初稿と初版の違いとして

初稿でのBrüderchen(兄)、Schwesterchen(妹)に対してそれぞれHänsel(ヘンゼル)、Gretel(グレーテル)という一般的な実名が与えられることにより、物語に具体性が増している。

▲出典:大手前大学論集『グリム童話集』初稿、初版、第7版における「ヘンゼルとグレーテル」の変化について 大島浩英 著

が挙げられています。

ただ「Schwesterchen」は正確には「姉妹(Sister)」のことであり、姉や妹を特定する言葉ではありません。ではなぜ「(妹)」が当てられているのでしょうか。

ウィキペディアによると「ヘンゼルとグレーテル」の初稿である「Brüderchen und Schwesterchen」と同名の物語が存在し、しばしば混同されたため「Hänsel und Gretel」に改題された事情があるそうです。

そして「Brüderchen und Schwesterchen」は、日本では主に「兄と妹」という題名で知られているようです。

兄と妹(あにといもうと)はヨーロッパに広く伝わる物語。『グリム童話』に収められているBrüderchen und Schwesterchenが最も知られている。
明確な年齢区分がなされていないため、姉と弟(あねとおとうと)とすることも多い。

出典:ウィキペディア

ちなみに現在、ネット辞書Glosbeによると「Brüderchen」単独の場合は「弟」ですが「Brüderchen und Schwesterchen」は「兄と妹」と翻訳されます。

 

同じ題名から出発した異なる物語がどちらも日本では「兄と妹」となっている理由は定かではありません。もしかしたら物語の内容から日本人の男性観女性観によって兄妹と判断されたのかもしれません。いずれにしろ現在は「兄と妹」が一般的なようです。

 

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「ヘンゼルとグレーテル」は森の中で見つけたお菓子の家に招き入れられ、老婆によってまず兄が、つぎにまだやせている(と見せかけた)妹が食べられそうになった物語です。

さて、番組に戻りましょう。そう、登場人物はヘンゼルと姉、「魔法のかまど」だけでした。冒頭で姉がグレーテルたちの一人ではなく、グレーテル本人ではないかと仮説を立てましたが、妹ではないことから間違いであったと判断できます。グレーテルはどこに行ってしまったのでしょう。

もしかしたらタイトルに秘密が隠されているのかもしれません。検証してみましょう。

「グレーテルのかまど」の「の」には二つの意味があります。

一つは所有を意味する「の」。

であるとすれば所有者の不在です。どこか遠くへ旅行にでも行っているのでしょうか。あるいはすでに嫁いでしまったか。いやいや天国に? やだ! なんだか事件の匂いがしませんか。

また一つは状態を意味する暗喩の「の」

つまり「母ちゃんの鬼!」の「の」ですね。今回のケースに当てはめると「グレーテルはかまど」という意味になります。え、かまど=グレーテル? どういうことなのでしょう。

いずれにしろ、グレーテルの不在は、トゥルーストーリーの存在をほのめかしているようで不気味です。

 

グレーテルを消した?「魔法のかまど」

forest「グレーテルのかまど」にはもう一つ謎があります。それは「魔法のかまど」の存在です。

ここでもう一度童話に戻ってみましょう。

初稿では「お菓子の家に住む老婆」とあったものが初版からは

老婆は悪い魔女で、子供たちを待ち伏せし、おびき寄せるためにパンの家を建てた

▲出典:大手前大学論集『グリム童話集』初稿、初版、第7版における「ヘンゼルとグレーテル」の変化について 大島浩英 著

となります。すなわち「老婆は魔女」です。

また

ヘンゼルを食べる前にパン焼き釜でグレーテルをも

▲出典:大手前大学論集『グリム童話集』初稿、初版、第7版における「ヘンゼルとグレーテル」の変化について 大島浩英 著

とあります。

童話に登場する釜は「パン焼き釜」なんですね。パンが焼けるのですから、お菓子も焼けるでしょう。さまざまなお菓子で彩られた家は、当然この「パン焼き釜」で作られたにちがいありません。

そして物語のクライマックスで賢いグレーテルは

老婆に手本を示すよう依頼し、老婆を釜の中に突き飛ばし

▲出典:大手前大学論集『グリム童話集』初稿、初版、第7版における「ヘンゼルとグレーテル」の変化について 大島浩英 著

fireなんと残忍な所業でしょう。必死とはいえグレーテルによって死に追いやれた老婆の悔しさ、恨みは相当なものだったはずです。

さて、ここから番組の「魔法のかまど」が何であるかを推理します。ヒントは「魔女」と「パン焼き釜」。そう。「魔法のかまど」はあの「魔女」が突き込まれた「パン焼き釜」だったのではないでしょうか。ならばお菓子づくりについてあんなに詳しいのも納得です。

しかし、どうしてグレーテルに恨みを持っていたはずの「パン焼き釜」は、ヘンゼルの末裔の前で、いつもご機嫌なのでしょうか。

もしかしたらそれは「パン焼き釜」が、すでに恨みを果たしているからではないでしょうか。つまりかまどがグレーテルを食べちゃった。なんとも悲惨なダーク・ファンタジーですが、それならグレーテルの不在もつじつまがあいます。

 

姉は幻の存在か

さらにもう一つ不可解なことがあります。

それはお菓子好きの姉がいっこうに姿を見せないことです。

たしかにメモを残したり、ヘンゼルがドアを開け帰宅を出迎えたりします。しかし姉本人の姿が画面に映しだされることはありません。むしろヘンゼルがカメラ目線で姉に向かって話しているのは異常です。目が虚ろにさえ見える。

本当は姉さえこの世に存在しないのではないでしょうか。

 

秘められたトゥルーストーリー

これまで検証してきたことから「グレーテルのかまど」には、つぎのような真実の物語が裏に存在すると考えられます。

ある家に引っ越してきた兄と妹。それはヘンゼルの末裔であり、妹は代々グレーテルと命名されていた。そして、そこにあったのはあの魔女が乗り移った「パン焼き釜」。その偶然の出会いが悲劇の始まりだった。

ある日、兄に食べさせてあげようとお菓子作りをしていた妹グレーテルは、兄の目の前で恨みを持つかまどに飲みこまれてしまう。一方かまどの呪いによって老いを止められた兄は、恐怖におびえながらお菓子を作り続けなければならない無間地獄に陥る。

妹グレーテルがもしも生きていれば、今年はいくつになっただろう。そう思い続けているうちに、いつしか兄の年齢を超え、彼女を姉と思い込むようになっていった。気の狂った兄ヘンゼルはグレーテルの帰りを永遠に待ち続けるのだった。

しかし彼の望みが果たされることはない。なぜなら「グレーテルはかまど」だから。

 

僕の説を信じるか、信じないかは、あなた…あ、ちがう番組か?

 

※ヘンゼルは妹と特定されているわけではない、というコメントをいくつかちょうだいしたので、本ブログの見解がより明確となるように2017年6月13日追記しました。これはあくまでパロディであり、ファンタジーですので、遊び心をもって読んでいただけると助かります。最後までありがとうございました。

 

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